「初めて犬を飼い始めたんですけど、保険って入ったほうがいいですかね?」
サロンで、こんなご相談を受けたことがあります。
以前の私なら「入っていたほうがいいですよ」と答えていました。そのほうが安心ですし、治療費も安く済むと思っていたからです。
でも、今の答えは少し違います。愛犬に保険をかけていない私が、それでも「この人は入ったほうがいい」と思うケースを、先に結論からお伝えします。あくまで一人のトリマー、一人の飼い主としての考えとして読んでいただけたらうれしいです。
結論|貯金がないならペット保険は必要、あるならいらない
保険が必要かどうかは、急な手術や入院の費用を、今すぐ貯金から払えるかどうかでわかります。
では、いくらあれば「払える」と言えるのか。実際の治療費のデータから見てみましょう。
手術や入院は、1回で数万円〜30万円台
| 治療の内容 | 費用 |
|---|---|
| 飲み込んだ異物を内視鏡で取り出す(全身麻酔) | 77,760円 |
| 皮膚のできものを手術で取る | 90,400円 |
| 歯石除去と抜歯(全身麻酔) | 97,300円 |
| 腸閉塞(入院5日+おなかを開く手術) | 174,500円 |
| 膝のお皿のずれ(膝蓋骨脱臼)の手術+入院4日 | 188,000円 |
| 膝のお皿のずれ(膝蓋骨脱臼)の手術 | 254,000円 |
| 骨折した骨を手術でつなぐ | 308,700円 |
| 気胸(入院7日+手術) | 333,000円 |
出典:アイペット損保「犬の手術・入院費用はどのくらいかかる?」(2025年1〜12月の保険金請求データからのサンプル調査)、アニコム損保「犬の保険って必要?」(保険金請求の一例)。※どちらも平均ではなく一例です。
比較的軽い手術でも8〜10万円程度、骨折やおなかを開く手術、入院が長引くケースでは20〜30万円台になっています。金額には幅があり、動物病院によっても変わります。
サロンでも、お客さまから「緊急手術で40万円かかった」というお話を聞いたこともあります。まとまった貯金がなければ、すぐには用意できない金額ですよね。
目安は「50万円を、生活費とは別にすぐ出せるか」
私は、50万円を生活費とは別にすぐ出せるかどうかを目安にしてほしいと思っています。表のような手術や入院の費用に加えて、家に帰ってからも続くお薬代がかかることもあるからです。
入ったほうがいい人
- 50万円を、生活費とは別にすぐには出せない
- 犬を迎えたばかりで、犬のための貯金がまだない
貯金がないうちは、保険が大きな支えになります。お金の心配をせずに治療を選べるのが、保険のいちばんの価値です。
入らなくてもいい人
- 50万円を、生活費とは別にすぐ出せる貯金がある
この場合は、保険料を払うかわりに、その分を貯金に回すという選択肢があります。私はこちらです。
私は愛犬にペット保険をかけていません
私は今も昔も、愛犬にペット保険をかけていません。そのかわり、犬のための貯金をしています。
私がはじめて犬を飼ったのは、トリマーになってからでした。そのころ先輩トリマーから「将来、シニアになってからが一番お金がかかるから、貯金しときなさいよ」と言われ、そうしておこうと決めました。
じつは以前、職場でペット保険を扱えるようにと、スタッフ全員で資格を取ったことがあります。私も試験を受けて合格し、保険の仕組みはひととおり勉強しました。そのうえで今は、保険に入らず貯金で備えるほうを選んでいます。
ペット保険は「安心のため」ではなく「足りない分」を補うもの
保険というと「入っておけば安心」と考えがちです。私も昔はそう思っていました。
でも今は、何でもかんでも安心のために入るのではなく、貯金で足りない分を補うためのものだと考えています。
さきほどの表のように、手術や入院は1回で数十万円になることがあります。貯金だけでは払いきれないとき、その足りない分を補うのがペット保険の役割です。
入る前に知っておきたい、ペット保険の3つの仕組み
保険に入るなら、契約の前に知っておいてほしい仕組みが3つあります。あとで「こんなはずじゃなかった」とならないように、確認しておきましょう。
① 1年ごとに更新する
ペット保険の多くは1年ごとの契約で、毎年更新しながら続けていく仕組みです。更新の時期が近づくと、保険会社から案内が届きます。
② 更新のときの扱いは、保険会社によって違う
加入したときの条件のまま続けられる保険もあれば、糖尿病などの慢性疾患にかかると、次の更新からその病気が補償の対象外になったり、更新そのものを断られたりする保険もあります。
長く治療が続く病気ほど、保険が必要になる場面です。契約する前に、更新のときの条件を必ず確認してください。条件は、契約の前に渡される「重要事項説明書」に書かれています。
③ 新しく入れる年齢には上限がある
新しく入れる年齢には上限があり、「7歳11か月まで」「8歳11か月まで」など保険によって違います。シニアでも入れる保険はありますが、年齢が上がるほど選べる保険は少なくなります。持病があると、条件がついたり入れなかったりすることもあります。
一方で、一度入ってしまえば、年齢の上限なく更新を続けられる保険が多いです。迷っているなら、若くて元気なうちに決めておくほうが選択肢は広がります。
貯金ができたら、保険は「卒業」していい
保険は、一度入ったらずっと続けるものだと思っていませんか? 私は、必要なときだけ入って、保険を使わなくても問題なく払えるようになったら解約すればいいと考えています。
たとえば、子犬を迎えた直後は貯金がないので保険に入る。そのあいだも犬のための貯金を続けて、十分な額になったら保険を卒業する。こういう使い方もできます。
そして、今まで払っていた保険料の分は、貯金に回してさらに手厚くしてもいいですし、毎日のごはんを少しグレードアップしたり、お出かけに使ったりと、好きなことに使えますよ。
ただし、解約は慎重に。さきほどの年齢の上限や持病の条件があるので、一度やめると、あとから入り直すのはむずかしくなります。
だからこそ、「なんとなく貯まったから」ではなく、「保険を使わなくても払える」と言い切れるまで貯めてから判断するのがおすすめです。
保険に入らない私の備え方|お金を2つに分ける
私は、犬にかかるお金を2つに分けて考えています。
- 大きな手術や入院の費用 → 犬のための貯金から
- フィラリアやノミダニの薬、ワクチン代 → 毎月の生活費から
貯金はあくまで、大きな手術や入院のためのお金。予防の費用は毎月かかるものとして、ふだんの生活費から出しています。ノミダニの薬をいつまで使うかは、犬のノミダニ予防薬はいつまで?1年中使う理由とおすすめの虫よけを解説で書いています。
私の愛犬も、今はシニアになりました。先輩が言っていた「一番お金がかかる時期」に入ったことになります。確かに、体のできものや、膝の問題など気になるところが少しずつ増え、病院へ行く回数も若いころに比べると増えました。
データで見ても、先輩の言葉どおりです。犬1頭あたりの1年間の診療費(通院・入院・手術を含む)は、年齢が上がるほど増えていきます。
| 年齢 | 平均 | 中央値 |
|---|---|---|
| 0〜4歳 | 52,613円 | 21,860円 |
| 5〜9歳 | 88,362円 | 39,358円 |
| 10歳以上 | 172,742円 | 99,346円 |
出典:アニコム『家庭どうぶつ白書2025』第2部第3章(2023年4月〜2024年3月に保険契約を始めた犬のうち、保険金の請求があった犬の診療費を集計)。中央値=金額の低い順に並べたときにちょうど真ん中にくる値。
10歳以上の平均は、0〜4歳の3倍以上です。保険に入らない場合は、年齢とともに医療費が増えていくことも頭に入れておくと安心です。
保険より前にできること|繰り返さない体づくり
保険は、病気になったときの備えです。でも私は、それと同じくらい、毎日のごはんや暮らしを見直すことが大切だと考えています。
さきほどの白書では、どの年齢でも、保険金の請求がいちばん多い病気は「嘔吐・下痢・血便」でした。外耳炎や皮膚炎も上位に入っています。どれも、繰り返しやすい身近なトラブルです。
病院で薬を出してもらうと、ひとまず安心しますよね。でも、お薬には症状をおさえるものも多く、原因がそのままだと、また同じことを繰り返すことがあります。
どうして皮膚が赤いのか、なぜ耳がかゆいのか、なぜ下痢をしたのか。原因を考えて、日常生活を調整していくことが必要だと私は思っています。
見直すのは食事だけではありませんが、食べ物の見直しで改善することも十分にあると考えています。
なんとなくあげているごはんを、材料を気にして選んでみる。それだけでも大きな一歩です。
今ある症状の治療は、動物病院で。治療は病院に任せて、繰り返さない体づくりは毎日のごはんと暮らしで。この二本立てで考えてみてください。
ごはんの材料の見方は、犬の手作りごはん入門|メリット・デメリットと始め方や、このこのごはんで涙やけは治らない?涙やけの原因4つと見直したいことでも書いています。
まとめ
- 分かれ目は「急な手術や入院の費用を、今すぐ貯金から払えるか」
- 手術や入院は1回で数万円〜30万円台。目安は「50万円を生活費とは別にすぐ出せるか」
- 払えないなら保険が支えになる。払える貯金があるなら、入らない選択肢もある
- 保険は「安心のため」ではなく、貯金で足りない分を補うもの
- 更新のときの条件は保険会社によって違うので、契約前に必ず確認
- 貯金が十分にできたら、保険を卒業してもいい(入り直しはむずかしいので慎重に)
- 貯金は大きな手術・入院用、予防の費用は毎月の生活費から
- 保険より前に、繰り返さない体づくりを。治療は病院で、体づくりは毎日のごはんと暮らしで
保険に入るかどうかに、全員に共通する正解はありません。大切なのは、「うちの子に何かあったとき、どうやって払うか」を先に決めておくことです。
